川上から川下まで共存共栄の経済を推進することを目的とし、中小企業庁が進める「パートナーシップ宣言」というものがある。
企業がこの宣言を行うにあたり参照すべき基準を、「振興基準」として経済産業省が定めている。
この基準が含蓄に富んでいると思った。
まず、ありがたいと思った点がある。
この振興基準は「下請中小企業振興法」に基づき定められており、対象とする事業者の範囲は「下請法」と同様かと思ったのだが、違った。
下請法において農業者は対象とならないのに対し、振興法に基づき定めるところの振興基準においては、農業者も対象に含まれる、という。
つまり、事業者の一員として農業者の権利も守るという内容であり、まずそのことが非常にありがたいと感じた。
その上で、振興基準の第一は以下の通り。
第1 中小受託事業者の生産性の向上及び製品若しくは情報成果物の品質若しくは性能又は役務の品質の改善に関する事項
1 中小受託事業者の努力 中小受託事業者は、生産年齢人口の減少、経済の国際化の一層の進展等に適切に対応するため、働き方を見直し、魅力ある職場づくりに努めるとともに、脱炭素化、電子受発注の導入を始めとする情報化等の課題にも適切に対応できるよう、技術開発、施設・設備の投資、他の事業者との連携等により、技術の向上、生産性の向上及び製品・役務等の品質の改善に努めるものとする。
2 委託事業者の努力 委託事業者は、中小受託事業者が働き方改革、生産性の向上等に取り組むことができるよう配慮して、中小受託事業者の要請に応じ、中小受託事業者の施設又は設備の導入、技術の向上並びに経営管理及び人事・労務管理の改善に際し、助言、研修、従業員の派遣等の協力を行うほか、中小受託事業者に対する発注条件、取引条件等を設定するよう努めるものとする。また、中小受託事業者の脱炭素化、情報化等を支援し、他の事業者と既存の取引関係、系列、企業規模等を超えた連携を進めること等により、サプライチェーン全体における付加価値向上及び共存共栄の実現に努めるものとする。その際、脱炭素化に伴うコストは、サプライチェーン全体で負担し、中小受託事業者のみに負担が寄せられないように配慮する。
以上、農業者の立場で読み替えてみる
1 農業者の努力
農業者は
- 農業生産者は生産年齢人口はいうまでもないが、生産者全体が減少しているなか、
- 農業経済の国際化の進展に遅れを取らぬよう適切に対応するため
- 温暖化やコスト増のなかにありながらも、労働環境・働き方を見直し、魅力ある職場づくりに努めるとともに
- 環境に配慮した持続可能な事業展開、IoT化・電子受発注の導入を始めとする情報化等の課題にも適切に対応できるよう
- 技術開発、施設・設備の投資、他の生産者との連携等により
- 技術の向上、生産性の向上及び生産物・役務等の品質の改善に努めるものとする。
2 出荷先(農協あるいは取引先)の努力
出荷先は、
- 農業者が働き方改革、生産性の向上等に取り組むことができるよう配慮して、
- 農業者の要請に応じ、農業者の施設又は設備の導入、技術の向上並びに経営管理及び人事・労務管理の改善に際し
- 助言、研修、従業員の派遣等の協力を行うほか
- 農業者に対する発注条件、取引条件等を設定するよう努めるものとする。
- また、農業者の持続可能な事業展開、情報化等を支援し、
- 他の農業者と既存の取引関係、系列、企業規模等を超えた連携を進めること等により
- 農産物サプライチェーン全体における付加価値向上及び共存共栄の実現に努めるものとする。
- その際、環境に配慮した持続可能な事業展開に伴うコストは、サプライチェーン全体で負担し、農業者のみに負担が寄せられないように配慮する。
となるかと思う。
この内容は今の社会においては当然に履行されるべきものであるが、農業においてこれが履行できるかどうかは注意を払う必要がある。
社会におけるこれらルールの履行の可否は、その監視役・推進役となる行政機関の存在にかかっているわけだが、農業においてはその役割をほぼ全てを農林水産省のみで背負っている状態だ。
普通、上記の振興基準が対象とする企業に対しては、
- 経済活動の基本となるルールにおいては経済産業省
- 労使関係、労働環境に関するルールにおいては厚生労働省
- 脱炭素においては環境省
- 情報化においては経済産業省やデジタル庁
- 適正な取引の監視においては公正取引委員会
などが関わっている。
しかし、農業においては全体の2-3%程度存在する法人の活動を除けば、これら省庁の管轄対象外となる。
そして、それは農水省が一手に担うことになっている。
各省庁が役割分担しながら進めていることを農水省だけで担えるはずもなく(本来の役割でもない)、その結果、農業においては労働基準法、下請法、税法など、あらゆる分野で特例扱いという名の対象外が存在しており、規制や改正が進まないまま社会全体の基準から大きく後退してしまっている。
農業者の権利は守られにくい構造となっている。
そういった構造的な課題があることは十分認識をしておく必要があるが、そのうえで農業関係者は、上記の振興基準が示す内容が社会通念上履行されるべきものである、ということを確認し、自主的に進める必要がある。
この振興基準に示される内容は、今の農業界にとっては少し高いハードルだ。
生産者だけで進められるものではないだろう。
農水省はもちろんだが、生産者にもっとも近い基礎自治体や農協が真剣に取り組むことが重要だ。
この振興基準第一はシンプルだが、重要な点は網羅されている。
これらが農業の課題だといっていいと思う。