13. 風の谷のいちご(2)

農業の人口減少についてもう少し見てみます。



農業者の減少速度は圧倒的

まず、農業人口の減少ですが、前の記事で2020年は2010年の2/3程度の数になったと書きました。(農業者数は2010年比66%、農業経営体数は64%)
次の統計調査は2025年ですが、これまでの減少数で推移した場合、2025年にはどうなっているのか予測してみます。

農業経営体数は2010年(168万)から2015年(138万)で30万の減少、2015年(138万)から2020年(108万)で同じく30万の減少。年6万ずつ経営体が減少しています。
2025年には78万、2030年には48万経営体(2010年比28%)になるペースです。

基幹的農業従事者数は2010年(205万)から2015年(176万)で30万の減少、2015年(176万)から2020年(136万)で40万の減少、平均すると年7万人ずつ、2015年から2020年は年8万人ずつ農業従事者が減少しているペース。
年7万人の減少として2025年に101万、2030年に66万人(2010年比32%)になるペースです。

2010年から2020年までの10年で2/3に減少した農業者数は、2020年から2030年までの10年で1/2に減少する、というペースです。



この間、日本人口は2010年12708万人、2020年12410万人、2030年の予測は11662万人です。
2010年を100とすると、2020年は97.7、2030年は91.8です。
農業者は2010年を100とすると、2020年は66.4、2030年は32.3です。
人口減少を考える時、社会全体の減少とは比較にならない速度で減少するのが農業なのです。(要因は色々ありますが割愛します。)

まずはこの絶望的な状況を受け入れ、ちゃんと絶望するところから始まります。


大鹿村の農地利用状況

大鹿村農業委員会によると2022年時点での大鹿村内の遊休農地割合は36.7%です。(農地面積188ha、うち遊休農地面積69ha)

約70年前、1955年頃には大鹿村の人口は5,000人でした。
当時は全国の就業者数に占める農林業従事者の割合が28.7%。長野県は全国平均より高い割合だとは思いますが、仮に30%としても大鹿村内で1,000人以上が農業に携わっていたことは間違いありません。(実際には村民の半数近くが農業に携わっていたと思います)

現在大鹿村にある農地188haは1,000人かそれ以上の人たちで管理されてきたとすると、現在大鹿村人口900人のうち農業に携わる人が半数いたとしても450人。(実際には半数もいないと思いますが)
そのうちの大半はご高齢者です。

遊休農地が36.7%という割合は長野県内でも指折りの多さですが、農業に関わる人の減少を考えれば当然のことです。


地方の農村は存続が危ぶまれる

人口減少局面について、昔の日本はもっと人口が少なかった(江戸時代は3,000万人程度)。今が多すぎる、という見方も出来ます。
が、昔に戻るわけではありません。
これからの人口減少は、都市部に人が集中した状態という点で昔とは様子が異なります。
300年前の1721年の人口は2,600万人ですが、当時は農民が85%、人口は武蔵国と陸奥国が190万人ほどで多めではありますが、全国そこまで偏りなく分布しています。(江戸時代の日本の人口統計, Wikipedia)

雑な比較ですが、武蔵国を東京、信濃国を長野と置き換えて300年前の1721年と2022年を比較してみると
武蔵国 190万人(全人口の7.3%)
信濃国 69万人(同2.65%)
武蔵国は信濃国の2.75倍。

東京都 1400万人(全人口の11.2%)
長野県 202万人(同1.6%)
東京都は長野県の6.9倍。

ちなみに平均年齢は
東京都 45.3歳(老年化指数203.7)
長野県 49.4歳(老年化指数266.9)
です。(2020年, 国立社会保障人口問題研究所)

都市部と地方の人口・労働力の偏りは昔に比べて増しています。
この状態で人が減っていけば、都市部は残るものの地方は消滅していくことになります。ましてや農業者人口は人口減少の5倍早く減っていくので、地方の農業・農村は存続の瀬戸際に立たされることになります。
ただでさえ、人口密度の低い農村はインフラや行政サービスの維持が困難になってきているのに。


農村の過疎により、都市部への農産物の供給が不足し、農産物不足が社会問題として顕在化してくるかも知れません。
それほど先の話ではなく、おそらく2030年頃くらいまでに。


コロナ禍にあって、地方回帰があるかと思われたものの、農業の現場で特に目立ったのはEC活用の動きくらいで、これはむしろ現場に混乱を生じさせているのではないかと感じています。


(3)に続きます。

Sampai jumpa lagi.(それではまた。)


坂井